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尿路感染症 |
排尿時の痛みや尿の濁りはありませんか |
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尿路結石症 | 痛くない結石はコワイことも |
前立腺肥大症 | 尿の勢いが落ちたり、残ったりする感じはありませんか |
慢性前立腺炎 | 下腹部や会陰部(陰のうの裏)の鈍い痛みは |
前立腺がん | 血液検査で早期発見が可能です |
腎腫瘍、腎のう胞 | 腎臓のできものはまずエコー検査を |
尿路(腎盂、尿管、膀胱)腫瘍 | 痛くもないのに血尿が出れば要注意 |
陰のう水腫・精巣腫瘍 | 陰のうが腫れてくればエコー検査を |
神経因性膀胱 | おしっこが出ることはすばらしい |
過活動膀胱・尿失禁 | 原因によって治療法がかわってきます |
男性性機能障害 | ひとりで悩まないで何でも話してください |
男性不妊症 | 子供がなかなかできないのだけれど |
性行為感染症 | 症状の軽さが感染を拡げる結果に |
男性ブライダルチェック | 最近は女性ばかりではありません |
AGA(男性型脱毛症) | 前立腺とアタマとの意外な関係? |
みなさんは軽いものも含めると年に1回くらいはカゼをひくことはありませんか。カゼは呼吸器(上気道)感染ですが、尿の通り道に菌が入り込んで増殖した状態を尿路感染といいます。ほとんどのケースは尿道の出口から菌が入り込むので、尿道の短い女性に多く起こります。特に膀胱炎はおしっこのカゼひきと言われるくらいに泌尿器科ではしばしばみられる疾患です。通常であれば膀胱に菌が入り込んできても、排尿とともに押し返す抵抗力により事なきを得ますが、身体の疲れや冷え、ストレスなどでこの力が弱くなったり、あるいは排尿間隔が開きすぎたりすると膀胱の中で一気に菌が増殖し、膀胱の粘膜が炎症を起こします。排尿時の痛みや排尿後も残った感じがしてスッキリしない(残尿感)、またすぐにトイレに行きたくなる(頻尿)などの症状が出ます。
炎症が膀胱にとどまっているかぎり発熱はせず、通常であれば抗生物質の服用にて3~4日位で軽快していきますが、熱が出て腰や背中に痛みが出てくるといわゆるカゼをこじらせたとの同じで、炎症が腎臓(腎盂)に波及している状態となります。ときに39度以上の高熱が出ることもあり、ひどい時は敗血症に至ることもあるので、入院して十分な輸液とともに抗生物質の投与が必要となることが少なくありません。また治ってもすぐに膀胱炎が再発したり、なかなか完治しなかったりする場合は、膀胱になんらかの病気(結石や腫瘍、排尿障害など)が存在する可能性もありますので詳しい検査が必要です。
一方、男性の場合は女性に比べて尿道が長いので、外部から膀胱まで菌が届きにくく、膀胱の手前にある尿道や、男性特有の前立腺、精巣上体に炎症が生じることが相対的に多くなります。したがって男性に膀胱炎が見られる場合は、膀胱自体にもともとの病気が存在している可能性がありますので、やはり検査が必要となります。
人間にとって(もちろん他の動物にとっても)痛みというのは実にイヤなものです。痛みは身体の中に起こった異変を知らせるシグナルのひとつで、病気の発生を気づかせるきっかけになります。痛みをともなう病気は数多くありますが、とくに激しい痛みに悩まされることがある代表的な疾患が結石です。尿路結石は尿中の成分が結晶化して形成されたものですが、尿管に結石が落ち込んで尿が流れにくい状態になった時に、腎臓の中(腎盂)の圧力が高くなり七転八倒の痛みが生じます。しかし結石の痛みはつねに生じるわけではなく、結石が腎臓の中にある場合はあまり痛みを感じません。また尿管に結石が落ち込んでも、腰のあたりの鈍痛程度ですんでいる場合もあり、そのまま結石が留まって診察を受ける機会がなければ少しずつ大きくなり、それとともに腎臓(腎盂)の脹れが進んで行きます。この状態を水腎症といい、早く対処しないと腎臓の機能が悪くなる可能性がありますが、もう片方の腎臓が正常だとなかなか気づかないことになります。
昔の尿路結石の治療は(石が排出されるのを)待つか、(手術で)切るしかありませんでしたが、体外衝撃波結石破砕治療(ESWL)が出現して以降、その治療内容は一変しました。しかし結石が大きすぎたり硬かったりした場合に、ESWLだけではやはり治療しきれないこともあります。ただ最近の尿路内視鏡の機材やその治療技術の発達には目を見張るものがあり、そういう症例においても開腹手術まで施行することはまれになっています。またESWLと違って破砕した結石を同時に回収できるという利点から、難治例以外でも(ESWLよりも)内視鏡治療が優先されるケースもあります。
では尿路結石について何に注意したらよいでしょうか。もちろん激しい痛みがある時は誰でも受診されるでしょうが、腰や背中に重だるい違和感があったり、検診での尿検査で異常を指摘されたりすることがあれば、ぜひとも泌尿器科を受診してください。簡単なレントゲン検査と超音波検査でほとんどの結石は診断可能です。小さな石が腎臓の隅っこにポツンとあるだけでしたら特に身体に不具合を生じさせるものではないので、大きくならないかあるいは尿管に移動しないかを経過観察するだけで済むこともしばしばあります。
一方、腰の痛みとともに発熱がみられる場合は尿路感染(腎盂腎炎)をおこしている可能性があります。特に尿管内の結石で尿の流れが停滞していると、菌が腎盂内でどんどん増殖し、ときに敗血症という重篤な状態に移行することもあるので、すみやかに泌尿器科を受診するようにしてください。
最近は前立腺の病気に対する認識が高まり、排尿の具合が悪いと最初から泌尿器科を受診される方が以前より多くなりました。しかし前立腺がそもそもどういう働きをしているかは、まだあまりよくは知られていません。簡単に言うと精液の液体成分(精子自体は精巣で作られます)が作られるところですが、年齢の上昇とともに大きくなる傾向がしばしばみられます。前立腺は膀胱の下に位置している臓器で尿道を取り囲むような構造をしています。これが大きくなって(肥大)、膀胱の底を押し上げたり、尿道を圧迫したりすることによって生じてくるさまざまな症状を前立腺肥大症と総称しています。具体的には尿が近くなって夜中にトイレに行く回数が増えたり(夜間頻尿)、排尿の勢いが落ちたり(尿流量低下)、排尿後もすっきりせず残った感じ(残尿感)になったりします。かつてはトシをとったら小便の出が悪くなるのは仕方ないと放置される方もまれではなく、いよいよ尿が出なくなって(尿閉)から病院を受診することも時々みられました。
前立腺の肥大には男性ホルモンが関与しているため、昔の治療法には男性ホルモンの働きを弱めたりする薬剤や、あるいは女性ホルモンを使用して、前立腺自体を小さくさせようとするものがありました。しかしこれらは本来の男性機能や精力、体力に影響が出てくるという副作用があるため、使用頻度が減っていきました。その後、膀胱の出口近くにある受容体をブロックすることにより、排尿する際に前立腺部分を通る尿道が拡がりやすくなったり、膀胱自体への刺激をやわらげたりする作用を持った薬が登場しました。現在ではこのタイプが内服薬の主流になり、薬だけで症状をコントロールできるケースが以前より増加しています。そして前立腺に作用する部分だけの男性ホルモンを抑える薬もあらたに開発され、以前にみられた副作用が少ない状態で大きくなった前立腺を小さくさせることができ、手術の対象となる患者さんはさらに減ってきています。
しかし極端に大きな前立腺や膀胱の中にとび出すタイプの前立腺肥大は症状が強く、これらの内服薬の効果が十分ではないことが少なくないため、やはり手術が必要になってきます。泌尿器科分野では内視鏡手術がかなり以前から取り組まれており、尿道の内側から肥大した前立腺を電気メスで切除していく方法が標準的なものとなっていました。最近では内視鏡器具の発達により、レーザーを用いて大きな前立腺腫大をくり抜いたり(核出術)、中等度の肥大なら高エネルギーで蒸発させたり(蒸散術)して、手術時の出血をさらに少なくできるようになっています。
前立腺の病気は一般に50代以降の中高年の方によくみられますが、30~40代(ときに20代も)の方でも前立腺の具合が悪くなることがあります。下腹部や会陰部(陰のうと肛門の間の部位)に鈍い痛みがあり、排尿した後にすっきりしないという症状が主たるもので、長時間の座位や自転車・バイクなどの騎乗、または過度の飲酒で悪化することがしばしばみられます。
同じ前立腺炎でも急性の場合はベースに尿路感染があり、それが前立腺に波及して発熱や排尿時痛が出現します。症状は強いですが、通常は抗生物質がよく効き、数日間の治療で軽快していくことがほとんどです。かたや慢性の場合は尿路感染を伴わないことが多く、尿が濁っていないこともしばしばで発熱もみられません。厳密な病態(病気のありさま)は明確ではありませんが、前立腺やそれをふくむ骨盤内の血液循環が悪いとされる(うっ滞)説が有力です。慢性とされるだけに症状はあまり激しいものではありませんが、なかなかすぐにスッキリとは軽快していきません。治療は植物由来の製剤や漢方薬などを使用することが多いのですが、日常生活の心構えも大切です。会陰部への圧迫をなるべく加えないために、同じ姿勢での長時間の座位やサドルの小さな自転車(ロードレース用など)の騎乗は避けた方がいいでしょう。また症状が重くなっている時は刺激物の摂取や飲酒を控えた方が無難です。
この病気は調子が落ち着いている時と悪くなる時が、交互に波のように押し寄せることがしばしばあります。重い時は日常生活の注意と適宜の薬の服用でやり過ごしていけば、徐々に波の幅も小さくなって自然に軽快していくことが少なくないので、根気よく取り組んでいく姿勢が大切です。
一般にがんという病気は各種治療法が進歩している現在においても、やはり進行していると生命を脅かす病気というイメージはいまだ拭いきれません。早期発見・早期治療が原則で、泌尿器科の分野においても腎がんや膀胱がんなどはこれに当てはまります。
しかし前立腺がんはたいへんユニークな病気で、必ずしもこの原則に当てはまりません。もちろんがんですからすでに病状が顕著なものを放置していれば命にかかわりますが、前立腺がんはごく一部のものを除いて一般に進行はゆっくりしています。前立腺がんはあらゆるタイプのものを含めると男性の約4人のうち1人に発生すると言われていますが、多くの場合で気が付かない程度の進行で留まり、その間に他の病気で天寿を全うすることになります。したがってすべての前立腺がんを積極的に治療する必要はないのですが、その必要性の有無を見きわめるのはそれほど簡単ではありません。
初期の前立腺がんはほとんど症状がありません。前立腺肥大症に初期の前立腺がんが合併している場合に排尿障害が出ることもありますが、あくまで肥大症による症状であり、がん自体が何らかの症状をもたらすのはかなり進行して骨などに転移してからになります。一昔前には腰の痛みがなかなか治らず、よく調べてみると前立腺がんが腰椎に転移している状態でみつかったということもしばしばみられました。
この状況を一変させたのが前立腺腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)の登場です。血液検査によって測定される腫瘍マーカーは大腸、すい臓、肝臓などのがんにもありますが、PSAの優れている点は前立腺だけに含まれている物質であり、この上昇はほぼ前立腺に限っての病気があることを示していることです。(他の腫瘍マーカーは上昇がみられていても、その臓器だけの病気とは限らない場合があります。)もちろんPSAの上昇がただちに前立腺がんの確定にはなりませんが、前立腺の検査をするきっかけになり、現在では早期の段階で見つかるケースがかなりの部分を占めています。問題としてはごく早期のおとなしいがんまで見つけ出してしまうことにより、本来は命を脅かすところまでいかないがんまで治療するきっかけを作ってしまうことがあげられます。そのため特に高齢者の方には、経過観察をして悪化傾向がみられてから治療を開始する方法(待機療法)もとられています。
治療法は主にホルモン療法(注射と内服薬)、根治的手術、放射線治療の3種類があげられます。それぞれ特長を有する反面に不利なこともありますので、患者さんの年齢、病状、全身状態そしてご自身の希望を考慮に取り入れて、治療内容を決めていくことになります。前立腺がんは男性ホルモン(アンドロゲン)の働きで増殖することが多く、このアンドロゲンの働きをブロックするのがホルモン療法です。一般にこの療法は高齢者の方や、手術あるいは放射線治療を行う時期を過ぎている方が対象になります。がんが前立腺内に限局している場合は、手術や放射線治療の適応をまず考えていきます。前者では手術器具の発達により、開腹の傷が段々と小さくなり、やがて他の臓器の手術におけるのと同様に腹腔鏡が導入されるようになりました。そして最近ではロボット補助下の手術も普及してきています。もちろん人間のコントロールのもとでの施行ですが、前立腺は骨盤の深く狭いところに位置しており、人間の手が届きにくいところであっても、ぶれることなく操作できるのが強みです。一方、後者では前立腺内に小さなカプセル状の放射線物質を埋め込む方法や、前立腺内のがんがある場所に集中して強弱をつけた放射線や陽子線・重粒子線をあてる方法が出てきています。
最初に述べましたように、前立腺がんは他の臓器のがんに比べておとなしいイメージはありますが、やはり進行して転移のあるものや再燃(一旦病状が落ち着いていたものが、ふたたび勢いが出てきた状態)してきて、従来のホルモン療法が効きにくくなってきた状態(専門的には去勢抵抗性前立腺がんと言います)は治療困難とされてきました。しかし最近では新規の抗アンドロゲン薬の導入、化学療法の施行、遺伝子治療の試みもなされています。これらの治療法の実際については、泌尿器科専門医と相談されることをおすすめします。
昔の泌尿器科の教科書で腎臓がんの3大症状として、血尿、側腹部(わき腹)の痛み、側腹部の腫瘤触知(できものが触れる)と書かれていたものがありました。しかしこれらの症状が出てくる時は、かなり進行した状態であることがうかがわれます。現在は超音波(エコー)検査が普及し、検診でも取り入れられることが多くなっていますので無症状のうちに腎臓に何かがあると指摘されて泌尿器科を受診するケースが増えています。
腎臓に何かできものがあると言われたら大抵の人はびっくりされると思いますが、液体が入った袋(のう胞)か実のつまったもの(腫瘍)かによって対応がかわってきます。前者の場合、かなり大きくなって腰の違和感や鈍痛が出現したり、尿路を圧迫して腎盂が拡張したりしなければ基本的に経過観察でかまいません。後者では悪性の場合も考慮に入れて慎重に検査をすすめていきます。一部のもので良性の腫瘍もありますが、残念ながら腎臓の腫瘍は悪性であるケースが多いので、発見された時点でかなり大きなものはもちろん、小さなものでも増大する傾向が見られたら外科的治療の対象となります。
以前の腎臓の手術はわき腹に斜めの大きな傷が残ることが多かったのですが、現在では内視鏡(腹腔鏡もしくは後腹膜鏡)手術の方法が発達してきていますので、最終的に腎臓を取り出す小さな傷といくつかの穴だけとなり身体にかかる負担はかなり軽減されます。またロボット補助下の手術もふえてきており、腫瘍が小さなものであれば、腎臓を部分的に切除する方法や腫瘍部分だけを少しの余裕をもってくり抜く方法もとられています。ただ大きな腎腫瘍であったり、過去に腹部の手術歴があって癒着が予想されたりする場合は、安全性を考慮して従来の開放手術の方法がとられることもあります。
また腎臓の悪性腫瘍は有効な化学療法(抗がん剤)がなく、根治的な手術ができる時期を過ぎている場合は、インターフェロンなどのような従来の免疫療法に期待するしかありませんでした。しかし数年前から新しいがん治療薬として登場した分子標的治療薬が腎臓がんに対しても数種類が応用され、さらに新規の免疫療法薬(免疫チェックポイント阻害薬)なども登場しており、治療成績の改善が図られてきています。
排尿に関する症状で尿に血が混じるというものはしばしばみられます。検診で尿潜血反応が出ていると指摘されてわかるケースもあれば、肉眼でわかるほどの濃い血尿もあります。また排尿時や腰背部の痛みを伴うこともあれば、ほとんど症状が出ないこともあります。一般的に血尿の程度が強くなるほど、なんらかの病気が発生している可能性が高くなります。つまり検診で初めてわかる程度の軽い尿潜血反応ではあまり問題のないケースが多く、逆に血尿が濃くなればより厳重な注意が必要になってきます。
それでは症状についてはどうでしょうか。痛みや発熱などがあれば重い病気で、症状がほとんどなければまず大丈夫というわけには残念ながらいきません。特に症状を伴わない肉眼でわかる血尿(無症候性肉眼的血尿)は要注意です。というのも腎盂、尿管、膀胱という尿の通り道(尿路)にできる腫瘍の初期症状であることが多いからです。また数回血尿が出たあとに尿がきれいになり、そのまま治ってしまったものとして受診しないうちに腫瘍が進展していることもあり得ます。痛みや発熱があれば、ほとんどの方は診察を受けられるでしょうが、一度でも肉眼的血尿があった方は症状がなくてもぜひ泌尿器科を受診するようにしてください。
尿路腫瘍の治療ですが、原則は手術になります。膀胱内の浅い腫瘍であれば尿道からの内視鏡切除で治療可能ですので、身体にはまったく傷が残りません。腎盂や尿管の腫瘍は悪性であれば片側の腎臓と尿管を合わせて摘出するのが標準的な治療になります。この場合でも腹腔鏡(後腹膜鏡)やロボット補助下での手術が主流になっていますので、以前ほど傷は大きくなく身体にかかる負担も軽減されています。進行した膀胱がんでは膀胱を摘出する方法が一般的です。ただ尿をためる役割をする臓器がなくなるため、代わりに尿の通り道を作る必要が生じてきます(尿路再建)。尿管を直接皮膚外に出す方法や、腸で皮膚までの筒代わりにする方法が古くから行われてきましたが、尿をためる袋(パウチ)をつけなければなりません。そのデメリットを補う術式として腸で膀胱のような袋を作って尿道と接続する方法が考案されました。ただ相対的に長時間の手術となるため、他に合併症のある方への施行は困難なことがあります。
また手術の時期から外れた尿路腫瘍に対しては化学療法(抗がん剤)による治療が以前より行われることがありましたが、副作用により継続が困難になることも少なくありませんでした。最近になって副作用が比較的軽いながらも、有効性にそん色のない薬剤も登場してきており、治療の幅が拡がっています。
陰のうの皮膚は軟らかくのびやすいので、びっくりするくらいに大きく脹れてくることがあります。その原因も様々で炎症や精索の捻転の場合は発熱や痛みが出てきますが、一方で水腫や腫瘍では無症状であることがほとんどです。
もちろん何らかの症状がある時は、多くの方が早めに泌尿器科を受診されるでしょうが(捻転の場合はすみやかに診察を受ける必要があります)、症状のない場合はどうしても恥ずかしいところなので受診をためらいがちになります。そうしているうちに脹れが手の拳よりも大きくなり、下着を履きにくいや歩きにくいという状態になることもあります。大事な点は日常生活に支障をきたす程度の症状で済むのか、命にかかわる状態になる可能性があるのかを判断する必要があることです。具体的に言えば、精巣周囲の膜の中に液がたまってくる陰のう水腫というものか、あるいは精巣に発生した腫瘍が増大してきているものかにより、その後の治療内容が大きく変わってきます。これらの判断は陰のうの超音波(エコー)検査で比較的容易に行えます。
精巣はもともとおなかの中にあったものですが、胎児のうちに陰のうの中に下降してきます。そのなごりで精巣周囲は腹膜と同じような膜につつまれており、その間に液がたまった状態が陰のう水腫です。もちろん悪性のものではないので、小さければそのまま様子をみていても問題ありません。ただ大きくなってきて見た目にも日常生活にも不具合が生じてくるようであれば、陰のうの皮膚から針で内容液を吸引(穿刺)しますが、すぐにまた液がたまってくるようであれば、精巣周囲の膜を外科的に摘除(根治術)します。
一方、精巣の腫瘍は20~30代と若い世代に発症することが多いのが特徴です。陰のうの中がなんとなく腫れているかなと気づいたものの、症状がないために積極的に受診することなく過ごしているうちに腫瘍の増大、転移が進んでしまっていることもあります。治療は早期に腫瘍化した精巣を摘出し、肺や腹部のリンパ節に転移がみられている場合は、すみやかに化学療法(抗がん剤治療)を行っていきます。幸いにも精巣腫瘍は抗がん剤がよく効きますので、かなり進行している状況でも多くの方が元気に社会復帰されています。
尿は腎臓で絶え間なく作られ、尿管のぜん動によって膀胱に運ばれます。ここで一時的に溜められてある程度の量になれば、排尿というかたちで外に出されます。一見すると膀胱は単に尿を溜めておくだけの袋のように思えますが、そこには絶妙な神経の働きがあります。
膀胱を含めさまざまな臓器は、本人の意志でその動きをコントロールすることができないので、交感神経と副交感神経の相反した作用を有する2つの神経が1セットになった自律神経が調節しています。尿が溜められていく(畜尿)過程では、膀胱がその尿量に応じて大きくなっていくので膀胱の筋肉はゆったり(弛緩)しており、この状態では主に交感神経が働いています。そしてある程度の尿が溜まると、そのシグナルが神経を介して脳に伝わっていきます。ここで「まだトイレに行ってないので排尿をはじめてはダメ」という抑制が無意識のうちに働きます(禁制)。そうしてこのシグナルが徐々に強くなって、いよいよトイレに入って臨戦態勢になったら、この抑制が解除されて今度は副交感神経が働いて膀胱の筋肉が縮んで(収縮)、溜まった尿が放出されます。
これらの一連のメカニズムが力むことなく無意識のうちになされているのは、各神経が絶妙なバランスをもって働いているからです。膀胱自体が過敏になって尿意のシグナルが強くなるのは後の項で説明する過活動膀胱となりますが、膀胱と脳をつなぐ神経回路のどこかに異常をきたし、このメカニズムがスムーズにいかなくなる状態を神経因性膀胱と言います。脳血管疾患やパーキンソン病などの神経変性疾患、そして脳と膀胱との間にある脊髄を傷める脊髄損傷、また骨盤内の手術などで膀胱周囲の神経が障害された場合があげられます。一般的な病気で言えば、コントロール不良な糖尿病が長期間にわたるものでは、神経障害をきたすようになり膀胱機能(排尿機能)にも影響してきます。
治療は神経の働きのバランスを崩す原因となっている病気を治すことと言いたいところですが、そう簡単にいかないのが神経の病気の難しいところです。神経因性膀胱の代表的な症状は膀胱の収縮力が弱まり、多量の尿が膀胱内に残ってしまう状態です。この場合、まずは膀胱の出口の開きをスムーズにさせたり、膀胱の収縮力を高めたりする薬を使用していきます。ときにいきんだり(努責)、下腹部を押さえて排尿させようとする方もおられますが、あくまで圧をかけているだけであり、膀胱内の尿を腎臓に逆流させることもあるのでおすすめできません。上記の薬での効果が充分でないようならカテーテルという管を膀胱に入れて尿を出すようにします。ただこの管を入れたままの状態にしておくと、細菌が膀胱内に入りやすくなり慢性的な尿路感染が起こります。また膀胱に尿が溜められることなく外に出ていくので、膀胱がいつも縮んだ状態となり萎縮していきます。こうした弊害を防ぐ方法として、尿が溜まった時だけ一時的に自分で管を膀胱内に入れる方法が有効です。間欠的自己導尿と呼ばれ、清潔に行えば感染を起こす頻度を下げることができ、また膀胱自体を伸び縮みさせていることになるので萎縮を防ぐことができます。場合によっては膀胱機能のリハビリテーションにつながることにもなります。
尿が漏れる(尿失禁)という状況ほど不快で日常生活の質(QOL)をおとしめるものはありません。尿失禁の要因として大きく二つに分けられます。膀胱がお腹の圧力に押されて、尿の漏れを防いでいる尿道の括約筋が緩んでしまう腹圧性尿失禁と、排尿したいという感覚(尿意)が強く出すぎて自分の意志でコントロールできずに漏れてしまう切迫性尿失禁があります。(両方の要因が重なっているケースもしばしばみられます。)
特に腹圧性尿失禁は女性特有の病状と言えます。女性の骨盤は男性よりも横に大きな拡がりを有しています。女性は妊娠・出産という大切な役割を担っているため、赤ちゃんが育っていくスペースが必要になるのと、出産の際の赤ちゃんが通るために骨盤の下の出口が(男性よりも)大きく開いています。この出口を骨盤底筋群が覆って中の臓器を支えているのですが、人間は他の動物とちがって直立歩行をするので、下腹部の重みがすべてこの骨盤底筋群にかかります。まだ筋力のある若い間はいいのですが、中高年になって筋力が弱まるのと体重が増加する傾向にあるのとで、笑ったり、重たいものを持ち上げたり、きばったりと腹圧のかかる状態になると骨盤底筋群が支えきれず、尿道がダイレクトに押し下げられます。また女性の尿道は男性と比べて短いため、この状態になるとたやすく尿が漏れることになります。
治療については、症状が軽度であれば骨盤底筋群の筋力をアップする体操と体重の減量が有効ですが、これらはすぐに効果が出るものではなく、継続していくのは容易ではありません。外科的手術も古くからいろいろな方法が編み出されてきましたが、最近では尿道の中ほどを下からテープで支えるTVT(あるいはTOT)法という方法が標準的な治療になっています。
一方、切迫性尿失禁は少なからず男性にも見られます。もちろん膀胱に何らかの病気(炎症、腫瘍、結石など)があってのことなら、これらの病気をまず治療するのが先決です。これらがないのに尿が少し溜まっただけですぐに排尿したくなったり、漏れそうになったり(あるいは漏れたり)するのは膀胱が過敏な状態になっているということで過活動膀胱と呼ばれています。
膀胱において排尿を促すのは副交感神経であり、その神経の働きを抑える抗コリン薬によって膀胱の緊張を緩めるのが主な治療法ですが、逆に排尿する際の膀胱の縮む力が低下して尿が出にくくなったり、便秘や口の渇きなどの副作用が出たりすることもあり、服用の継続が困難な患者さんもおられました。そこで逆の働きをする交感神経をたかめる薬剤が開発され、これらの副作用の発現が緩和されると同時にバランスのとれた処方をすることも可能になりました。
性機能障害は直接には生命の危機に直結しないQOL disease(生活の質を損ねる病気)であるため、その治療法は一元的なものでなく、患者さんの希望や価値観に左右される面が多々あります。私が留学していましたカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の性機能障害の世界的権威であるTom. F. Lue教授が提唱しているPatient’s goal-directed approachが理想的な診療としてあげられています。 これは患者さんのニーズに合わせて診断、治療を組み立てていく方法で当クリニックでも原則としてこの手法にならっています。
具体的には積極的にバイアグラなどのPDE5阻害薬を使っていきたい方には、必要な問診と説明で服用可能と判断されたら直ちに処方を行い、一方で不安や緊張でうまくいかないことを気にかけておられる方には、ゆっくりとお話を伺い、それらを解決するお手伝いを致します。また他院でPDE5阻害薬をもらったけれど効果がなかった方や射精障害に悩まれる方にも日本性機能学会認定専門医として真摯に対応しております。
当クリニックでは上記のように患者さんのニーズに合わせて、診療を迅速、的確に行うためにまず専用の問診票を記入していただいています。(下記にあります2種類の問診票をプリントアウトして、あらかじめ記入していただけると診療がスムーズに運びます。)
性機能(勃起、射精)障害には不安、緊張、ストレス、疲れ、知識不足などが原因となっている機能性(心因性)要因と、性機能の発現に関わる神経、血管またはホルモンバランスやペニスの構造に異変や異常があることによる器質的要因があげられます。一般に若年の患者さんには前者のケースが多く、中高年の患者さんには後者の比率が高くなっていく傾向にあります。特に中高年の方では糖尿病、循環器疾患、肝疾患などに併発することがしばしばありますので注意が必要です。
心因性の要因が強いと考えられるケースでは、従来の漢方薬や抗不安薬などが有効なこともありますが、現在では3種類のPDE5阻害薬(バイアグラ、レビトラ、シアリス)が治療の中心となっています。残念ながらこれらの薬剤は医療保険の適応となっていません。もちろん患者さんが服用を希望され、客観的にみて最良の方法と判断される場合は当クリニックでは適正価格にて提供させていただいています。また各種にジェネリック(後発医薬品)が登場しており、経済的なご負担をより軽くすることも可能になっています。(PDE5阻害薬の料金表はこちら)
一方、他院でPDE5阻害薬を処方してもらったけれど効果がみられなかったケースには、血管作動薬の陰茎海綿体内注射などのより専門性の高い治療法も行っています(保険外治療となります)。ただこの方法の説明、実施には時間がかかりますので、ご希望の方は事前の予約確認をお願いしております。また診察の結果、この治療法が適応とならないこともありますので、あらかじめご了承ください。
これまで述べてきたように性機能障害の検査、治療には医療保険の適応になっていないものがあります。その場合は自費となりますが、あらかじめ費用等をご説明した上でそれらの施行をご相談させていただいています。
一般に健常な男女間で通常の性生活があって、1年経っても妊娠が成立しない場合を不妊症と言います。子供を持つことを希望するカップルの10~15%がこれに該当するとされています。昔は女性側の原因が多いとされていましたが、その後男性側の因子も約半数を占めていることがわかってきました。
男性不妊症の診察はまず、子供ができにくくなる要因の有無についての問診から始めます。(下記にあります問診票をプリントアウトして、あらかじめ記入していただけると診療がスムーズに運びます。)
次に精巣の大きさやその周囲に異常がないかを診察させていただき、造精機能に影響を及ぼすホルモンの血液検査も行っていきます。そして精液の具体的な状態(精子の数、運動性、精液自体の性状)を確認します。特に運動性は射精後時間が経つと落ちてきますので来院してからの採取をお願いしています。(専用の個室を用意しています。)しかしクリニックでの採取がどうしてもできない方や他院ですでに無精子症と診断されている方はご相談ください。
上記の検査結果を総合的に判断して治療法を選択していきますが、まず精子の数が少なかったり運動率が低い場合は、その数を上げたり、率を改善させる作用をもった薬剤を使っていきます。精巣周囲に静脈瘤という血だまりがある場合(精索静脈瘤と言います)、温度が上昇する傾向にあり造精機能に影響が出ることもあるので、この治療も考慮していきます。また造精を促すホルモン分泌が低下している場合、軽度ならホルモンを刺激する内服薬を処方し、中~高度ならこのホルモン作用を持った注射を定期的に行っていきます。(自己注射が可能な薬剤もあります。)
一方、精液中にまったく精子がない場合は、造られた精子が運ばれる過程のどこか(精管や精巣上体など)で詰まって液中に出てこられない(閉塞性無精子症)状態か、精巣自体で精子が造られていないとされる(非閉塞性無精子症)状態かを判断する必要があります。なお精子は精巣で作られますが、精液の液体部分は主に前立腺や精嚢腺で産生されます。特に非閉塞性のケースではかつては絶対的不妊症と言われて、自身の子供を持つことが不可能とされていました。そのなかにあって精巣内のごく一部でわずかに精子を作っているケースも存在していることがわかり、顕微鏡下での手術でこの精子を見つけ出して、体外(顕微)授精で妊娠させることも可能になってきています。なおこの手術は泌尿器科のなかでも男性不妊症診療を行っている施設のみでしか施行していませんが、幸いにも当科の近郊に専門施設があり連携を図っています。
一般に不妊治療は長期戦となります。精子は精巣内で作られて精液中に成熟した形になって現れるまで3カ月近くかかるので、治療の効果はすぐに現れません。また精液の状態は不安定なので良かったり悪かったりを繰り返すこともしばしばあります。最終的な目標は妊娠を成立させることなので、奥様の年齢や健康状態も重要なポイントになり、人工授精や体外授精などの生殖補助療法の適応になることもあります。したがって近隣の女性不妊クリニックとも緊密な協力関係を築いています。また2022年4月より不妊治療の保険適用範囲が拡大されていますので、受診のハードルはより下がっているものとなっています。
性行為を介して移っていく病気を性行為感染症(STDもしくはSTI)と言います。コンジローマや性器ヘルペスなどの皮膚病変が主体のものを除けば、男性の場合、排尿する部位と重なりますので排尿時の痛みや違和感というかたちで症状が現れることが一般的です。
一方、女性の場合はおりものの増加や下腹部の鈍痛という症状が出ることがありますが、男性ほど顕著なものは少なく、無症状であることも珍しくありません。特にクラミジア感染症は男性においても症状があまり感じられないこともしばしばあり、無意識のうちに感染を拡げていることになりかねません。症状が軽いとは言っても病気が静かに進行している場合もあり、男性では精巣上体炎を引き起こしたり、女性では卵管の閉塞や骨盤内あるいは肝臓周辺までの炎症につながったりして、不妊症の原因にもなりえます。さらに恐ろしいのは無意識に感染を拡げているケースというのは不特定多数の相手と無防備な性交渉をしていることが多く、HIV感染(エイズ)の危険性も高くなってきます。また数年前より過去の病気と思われていた梅毒の感染が顕著に増えてきています。以前までは特殊な病気であったため、専門医でなければベテランの医師であっても診断が困難なこともあり、さらに感染が拡がってしまう危険性もありました。
排尿時や尿道の違和感があり、心当たりのある方はやはり検査を受けることをおすすめします。以前までの検査では尿道の分泌物を直接採取していたため、痛いことをされると思われがちですが、現在では尿中に含まれるわずかなもので陽性かどうかを判断できるほど検査方法が進んでいますので、検尿をするのとかわりません。また先ほどの梅毒ではペニスに痛くも痒くもない硬結(硬いできもの)や手のひらに赤い発疹が出てくるようなことがあれば、血液検査で診察可能なので、ぜひ受診してください。
もし陽性と出た場合、特定のパートナーがおられるなら、その方も検査することが必要です。そして同じ結果が出たら同時に治療することが大切で、どちらか一方だけを治療しても移しあう状態(ピンポン感染と呼ばれます)では意味がないからです。性行為感染症は少しの注意で防げる病気です。無防備な性交渉にはくれぐれも気をつけましょう。
前項で無防備な性交渉には気をつける重要性について述べましたが、それでもついうっかりというのはあるものです。そういうケースにおいて、このたび新しい性行為感染症(STI)予防法が提唱されました。
それはDoxy PEP法というもので、アメリカのCDC(疾病管理予防センター)の臨床ガイドラインにおいてDoxycycline(Doxy)という抗生物質を曝露後(PEP : Post Exposure Prophylaxis)に服用して、一定のSTIの発症予防効果があることを示したものです。
具体的には同国で2020年から2022年にかけて行われた臨床研究に基づくもので、無防備な(コンドームを使用しない)性行為後72時間以内にDoxyを服用する群と服用しない群に分けて観察を行ったところ、前者が後者に比べて発症リスクがクラミジアで88%、梅毒で87%、淋病で55%下がるというものでした。
この結果を人種、体格、個人的背景の異なる我が国において、そのままあてはめるわけにはいきません。ただ行為後72時間以内にDoxy(ドキシルビシン)200mg を1回だけ服用と簡易な方法であること、下痢や腹痛などの副作用がみられることはあるが重篤なものはまれであること、そして無防備な性行為後の有効なSTI予防法がまだ確立されていないことより、この方法を導入している施設が増えてきています。
一方で性行為後の予防法という情報が先走り、この薬剤が濫用されることにより耐性化が進む事態が懸念されます。また予防と言っても、あくまで発症の程度を下げるだけであり、やはり不特定多数かつ無防備な性行為を避けることが前提であることには変わりありません。
当科においてはこれらのことを理解していただいた上で、あくまでレスキュー的使用目的として1回服用量を¥1,800(税別)で処方しております。(予防的服用のため健康保険適応対象外となります。)
ブライダルチェックはもっぱら結婚予定の女性が妊娠・出産に関連する疾患の有無を調べることとされていました。具体的には婦人科系がん(子宮頸がん、卵巣がん、乳がん)や妊娠の妨げになる疾患、性行為感染症についての検診です。しかし前項まで述べてきたように、不妊の原因の半数は男性側因子であり、性行為感染症は相手があってのことですからリスクは男女同じであるはずです。
また昨今の晩婚化により結婚してすぐに妊活に入るカップルも珍しくありません。1~2年しても子供ができず、その時点で検査して男性側に原因があったということになれば、女性が妊娠しやすいとされる貴重な期間を無為にしてしまうことになります。一方で妊娠は問題なくできても、妊婦検診でクラミジア感染をはじめて指摘されて驚かれるケースもあります。このようなことより男性側のチェックの必要性が認識されるようになり、当科においてもお問い合わせをいただくことが増えてきています。そのつど、それぞれの検査で対応しておりましたが、このたびご希望の方によりわかりやすく、気軽に受診していただくようなシステムを作成しました。
最近の啓発広告などでAGA(androgenetic alopecia : 男性型脱毛症)という言葉が目に付くようになりました。下半身の疾患を扱うことが多い泌尿器科で頭部の問題と何の関連が?と思われるかもしれませんが、実は共通するキーワードがあります。それは男性ホルモン(テストステロン)です。
テストステロンは、男性はもちろんのこと女性においても様々な役割を担っていますが、詳しく書いていくとそれだけで一冊の本になってしまいますので、ここでは前立腺と頭髪にしぼって説明していきます。
テストステロンは5α-還元酵素という物質によって、部分的にジヒドロテストステロンに変換されます。そしてこのジヒドロテストステロンが前立腺組織を増大させて(前立腺肥大症)、頭髪の脱毛を促進させる(AGA)ことがわかりました。そこで5α-還元酵素をおさえてジヒドロテストステロンの産生を抑制すれば、それぞれの治療につながるのではという発想がなされました。
5α-還元酵素にはⅠ型とⅡ型の2種類がありますが、Ⅱ型のみをおさえるフィナステリドとⅠ型とⅡ型の両方をおさえるデュタステリドという薬剤が開発されました。わが国においては、前者は当初からAGAの治療薬として扱われましたが、後者については先に前立腺肥大症に対する保険診療薬として認可されました。その後、このデュタステリドも商品名を変えて自費診療薬として再登場し、従来のフィナステリドと合わせてAGAに悩む方々へ処方されています。
(5α-還元酵素阻害薬の料金表はこちら)
このように男性ホルモンが介在するという点で、前立腺肥大症の治療を専門とする泌尿器科医にとってもAGA治療薬は身近な存在であるわけです。ただ男性ホルモンが関与しない脱毛(女性の薄毛、円形脱毛症など)は、これらの薬剤は適応外ですので、専門科(皮膚科など)の受診をお勧めします。